回数を重ねるたびに少しずつ状況は変わっていく。最初は少数の怪物が彷徨いているだけだった。そこにコロニストが加わって、怪物は群れとなって、ドローンが空を覆い、怪物の代わりにアンドロイドが闊歩するようになり、クルールにクラーケンまで投入され、ついにはリング本体が光線を放つようになった。
ああ、次はない。ストーム1とプロフェッサーの予感は確信と言って差し支えない。これ以上の防衛線を敷かれたら、もうたどり着くことはできない。
だからこれが最後だ。この時間、この場所でリングに攻撃するのは、最後になる。
時間遡行によって改変された世界では、自分の記憶すら信じられない。本当に、人類は少しの抵抗もできずに、滅亡へと追いやられたのか。本当に、プライマーは全ての戦術戦略で上を行き、人類を圧倒したのか。本当に、自分の戦いはなんの有効打にもならなかったのか。
いいや。ストーム1は首を横に振る。今の自分の記憶が本当の歴史ならば、プライマーは改変などせずとも簡単に人類を滅亡に追いやれたはずだ。繰り返すのは失敗をなかったことにするためだ。自分とプロフェッサーがそうであるように。
今までは、変化を求めながら変化を恐れていた。プロフェッサーはタイムパラドクスを。ストーム1は前線から離されることを――新兵が、まして民間人が軍の中で大立ち回りを演じては、あらぬ嫌疑をかけられて拘束されるかもしれない。その可能性を捨てきれなかった。だから一戦場程度の、戦術レベルの変化を積み重ねていた。だがそれでは駄目だ。もっと根本から、全てを変えなければ。
その覚悟は、もうできている。
「プロフェッサー。8月7日だ」
砲台から逃れ、ビルの残骸に身を潜めたタイミングでストーム1は口を開いた。
「その日、俺は車輌誘導の警備員として基地に入る。そこで怪物に襲われ、軍曹達に助けてもらう」
とうに知っている情報を改めて告げる。けれどプロフェッサーは怪訝そうな素振りを見せない。膝をついて低い姿勢を保ったまま、真剣な顔で頷いた。なにが言いたいのかわかっているのだろう。
「全てを変える。武器が必要だ」
「ああ」
「軍曹達と出会う前に武器がいる。基地に入るまでに送ってくれ。絶対にだ。どんな手を使ってもいい。どんな武器でもいい。グレネード一つだって構いやしない。それだけで俺は戦える」
これまでも、プロフェッサーが手ずから製作、調整した武器を秘密裏に受け取っていた。だがいずれも、タイミングとしてはEDFに正式入隊した後だった。当然だ。隊員になる前と後では、武器を送る手間も、危険性も天と地の違いがある。それを理解したうえでの頼みだ。
「救いたい人がいるんだな」
そうだ。今まで見殺しにしてきた人がいる。今の自分はなにも持ってないから。仕方がないから。もっともらしい言い訳をして、ずっと諦めていた人だ。
「きっと、あの人を助けたって、この戦いにはなんの影響も及ぼさないだろう」
だとしても、だ。あの人を救えなければ、きっと自分は何一つ変われない。無力感を噛み締めながら戦いに挑むことになる。それじゃ駄目だ。先輩一人助けられないんじゃ、絶対に、俺が俺自身を許せない。
これは、心の問題だ。
「俺は全てを変える。手が届くところ、全てだ。もう覚悟はできてる」
二人の視線がぶつかる。一呼吸、世界が静寂した。
「隊員ですらない、民間人の君に武器を送れ、か。今までで一番無茶な注文かもしれないな」
プロフェッサーが声を上げて笑った。目尻に深い皺が刻まれるのを、ストーム1はきっと初めて見た。
「私も覚悟を決めた。君の手が届かないところは私が変えてみせる」
悲壮に染まっていた瞳がこの瞬間、爛々と輝いた。その輝きはストーム1の心に差し込む。不安の影を照らしてくれる――この人がいるから、暗闇の中、赤い空の下、顔を上げてまっすぐに進むことができるんだ。
「行こうか、相棒」
どちらともなく拳を差し出し、軽く合わせる。武器を握り直し、二人は飛び出した。リングの真下、弱点箇所はもう見えている。スコープはいらない。ドゥンケルを構えて立て続けに引き金を引く。背後ではアサルトライフルの銃声が鳴り響いた。
二人で何度も繰り返した。この荒廃した世界は、これで最後だ。