「腹減った」

 廊下に出た瞬間に、ぐいと手を引っ張られた。STが終わった直後の連行。いつものことで、もう慣れた。
 腹減ったということは、やはり、いつも通り何か作れということか。
 が、予想に反して、向かったのは駅から近い喫茶店だった。高校生が行くような店なので、それなりの値段でそれなりの味との噂。来たことはなかった。
 それにしても、あのレイモンが、わざわざ金を払ってまで来るとは。
 理由があるとしたら、他でもない、美味しいからだろう。私はこの手の店で美味しいものが出てくるとは思わないが。
 果たして、ショートケーキが並べられた。レイモンはそれをガツガツと食べ始めた。珍しく無言で。
 なぜか緊張しながらその姿を見守る。が、目の前を片付けた後の感想「うん、やっぱりお前のがいい」に拍子抜けした。そもそも何に緊張していたのかわからないが。
 クリームが多いだのフルーツがでかいだの、ぶつくさ言っている。見た感じそうだったなと同意しかけたのを、なんとか止めた。そういう感想は店を出てから言ってほしい。
「ロベルトの奴が値段の割にいけるって言うから来たんだけど……」笑いを含んだ声音でレイモンは言った。
「比べるまでもなかったわ」

 レイモンは残っていたアップルジュースをぐいっと一気飲みして一息ついた。ケーキとジュースの組み合わせには疑問がある……が、今は全く気にならなかった。
 私も美味くも不味くもないレモンティーを飲み干す。さっさと出よう。
 それを伝えようと顔を上げると、にんまり顔のレイモンと目が合った。なにか、予感がする。
「これからお前んち行っていい?」
「来てどうする」
「なんか作って」
「……そうくると思った」
 笑ってレジに向かう。ちらりと顧みたレイモンは面食らった表情だった。
 財布を出しながらも、頭の中は、既に冷蔵庫の中を思い出していた。
 さて、何を作ろう。ケーキはもういらないだろうか。いや、こいつのことだから「パトリックのは別腹!」なんて言うかもしれない。まあとにかく。
 なにかレイモンが喜ぶものを。

高校生レイパト。ロベルトは後輩。クリスマスだったからケーキ、とかそんなん。
101225

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