この年頃の五歳差、っていえばかなり大きい。肉体的、精神的な違いだけじゃない。ものの価値観とか知識とか他人との接し方とか、まあ、とにかくいろいろと。
 それは当たり前なんだけど。
「でも、大きすぎる」
「なにが」
 普段と同じ無感情な声音で、ヨハンは首を傾けた。
「身長だよ、身長。ヨハンの方が頭ひとつ分くらい高いでしょう?」
 腕を伸ばして確認。やっぱり高い、それどころか、頭ひとつ分よりもっとありそうだ。ヨハンもこくんと頷いて同意する。
 これほどの差があって困ること……というのはないんだけど。
「嫌なのか」
「そうじゃないよ」
 僕より三つ年下のダイクは、最近ぐんぐん背が伸びてる。あと一年もしたら追いつかれそうだ。チャールズ様だってまだ小さいけど、いつかはそうなるだろう。決して、二人が大きいわけじゃない。平均より少し上をいくくらいだと僕は思う。つまり、僕が小さいんだ。
「ただ、もうちょっと身長が高ければ……可愛いって言われないだろうし」
 不本意ながらよく言われる、ヴァンは可愛いなあと。その筆頭はギュスターヴ様だけど、ケルヴィン様にもフリンさんにも、女性であるレスリーさんにも言われてしまった。そして、そう言われる時は必ずと言っていいほど、頭を撫でられている。……よく考えてみると、可愛いとは言われなくても頭を撫でられることは度々あった。
 きっと、背が低いから頭が撫でやすくて、背が低いから子供みたいで。だから可愛いなんて言われるんだ!
「だって、僕もう十六なんだよ?! そりゃあ子供のうちはわかるけどさ……この年になって可愛いは許せない」
「いや、ヴァンはいくつになっても可愛いと思う」
「君の正直なところは魅力的だけど、時々思いっきり刺さるよ……」
 刺さる、の意味がわからなかったらしいヨハンは不思議そうな顔をしている。この言葉も教えてあげないとな……じゃなくて。
「どうやったら背が伸びると思う?」
 ため息混じりに尋ねてみるけど、それを聞いても仕方がないことはわかっていた。こんなくだらない話ができるのはヨハンだけだ。でもきっと、また返答に困って黙りこんでしまうのだろう。と、予想していたのだけど。
「ヴァンは、そのままがいい」
 思いがけず意見が飛んできた。それも、若干気に入らない意見。
「なんだって?」
「身長。伸びるな」
 今度はきっぱりと、命令口調で言い切られる。
「なんでだよ。なにが悪いの?」
 むかっとして、少し乱暴な言い方になるけど気にしてられない。
 ヨハンはぱっと視線を外して、無言のまま。この場合は、何を言えばいいか困っているんじゃなくて、言うべきか否か迷っているに違いない。こっちは気分を害されているのに!
「ちゃんと言って」
 じっと睨んであからさまに怒ってることを主張した、けど見上げられる形じゃあ凄みはないだろう。ああ、これも低身長の弊害だ。やっぱりいいことがない。
 でもヨハンは、僕の気迫に脅されたのか、単に折れたのか、ゆっくりと口を開いた。
「……今が、丁度いいから」
「丁度いい?」
「キスするのに丁度いい高さ」
 真顔で吐き出された言葉に、頭のなかのなにかがぷつんと切れた音がした。

ラブコメ要員よはばん。
頬に真っ赤なもみじを作ったヨハンはあとでギュス様に男前になったな!て言われてどういう意味かヴァンに聞いて逆の頬にももみじ作っちゃう。
100326 執筆
150314 修正

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