勝手に落ちてくる瞼を何度も擦って、覚束ない足を踏ん張って、ずっしりと重い体を引きずる。
 泥酔するつもりなんてなかったのに。
 あいつらがさっさと解放してれば、と悪態をついて、責任転嫁はよくないと思い直す。こんな状態になるまでグラスを手放さなかったのは、俺自身だ。
 冒険者仲間に乗せられて酒場で飲んでいたのは事実。日付が変わるまで付き合わされたのも事実。でも、俺が一言言えば、気の利く仲間たちはすぐに解放してくれただろう。むしろ飲みすぎだと言って止めてくれたかも。ていうか、そんな台詞を聞いたような気がする。ああ、聞いたわ。次に会った時に謝ろう。
 今はとにかく部屋に辿り着かないと。と、一歩踏み出して、がくんと膝が折れた。咄嗟に壁に手をつく。危なかった、今こけたら冗談抜きで二度と立ち上がれない。これは気を抜けないな。
 精力を総動員させて、なんとか部屋の前に着く。あとちょっとだ、と自分に喝を入れもたれかかるように扉を押し開けた。
 が、扉が軽かった。体がふわりと浮き上がり、俺は目をギュッと閉じた。やばい、床に激突する。けど、衝撃は来なかった。代わりに、何かに支えられる。
 ああそうか、と顔を上げると、案の定、俺を抱えていたのはグスタフだった。少し驚いたような表情をしていて、なんか、無性に笑える。
「よお、グスタフ」
 にへら、と笑ってがたいの良い体にしがみつく。うん、最も信頼を置いている人間の腕の中は心地良い。
「遅かったから、迎えに行こうと……」
 頭上で困惑気味に何か言っているけど、もう頭に入ってこない。俺はグスタフの言葉なんて全く気にせず手を伸ばした。ぐに、と頬を引っ張って顔を近づける。「痛い」という不機嫌な声も知らないふり。
 とりあえず、寝る前にこれだけは言わないと。
「ありがと、おやすみ」
 抵抗せずに瞼を落とす。そして、ギリギリで耐えていた意識も落ちる。
 この、俺を支えてくれる大きな掌は安心する。ベッドじゃなくても、宿じゃなくても、お前がいるならどこでもいいや。
 なんて。

ロベルトが寝る話を書きたかったその二。マッチョの胸板はやわらかくてあったかいそうです。
110401 執筆
120912 修正

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