「ゼロワン、緊急事態だ」
 通信を入れるとすぐに返事が寄越された。
「おー、大変なことになってるな。とりあえずこっちからの電力供給は絶ってあるぞ」
 そのようだな、と内心で相槌を打つ。得意の電撃が一切放たれないのがその証拠だった。代わりに繰り出される格闘術は苛烈だ。エレクトロの蹴りを防ぐ。重い一打に交差させた腕が震えた。相手は全力だ。手加減をする余裕はない。
「メンテナンス実施期間は、レベル1が7時間前、レベル2が101時間前、レベル3が……半年前だな。エネルギー残量はこちらからは確認できないが、最後にマックスにしたのが今朝らしい」
「止めることはできないのか」
「全然無理。こっちの操作は一切受け付けない。壊れるか、エネルギー切れを待つしかないかもな」
 一旦追撃が可能な範囲で距離を取る。離れすぎると標的を変えられるかもしれない。他のメンバーにこのエレクトロを相手にさせるわけにはいかない。
「処理の許可を」
「ああ。俺が出す。ホリックには俺から伝える」
 即答を得て、ボルテージはわずかに後方へステップした。殴りかかろうとしたエレクトロの拳が鼻を掠める。すかさず飛んできた左手に、ボルテージは抵抗する間もなく首を捕らわれた。両足が浮く。片腕だけで持ち上げられていた。ぎしり、と軋む音。首への圧力が強まる。捻り潰すつもりなのだろう。さすがの戦闘型だな、と宙ぶらりんの状態で感心する。だが、これは無意味だ。
「エレクトロ、俺は人間じゃないぞ」
 自身を持ち上げている腕を両手で掴む。それを支点に両足を腕に絡め、体重をかけて捻った。ブチブチと皮が破れ、ガコンと関節が外れ、バツンとコードが弾ける。肩から右腕を無くしたエレクトロはバランスを崩してよろめいた。一方、危なげなく着地したボルテージは、いまなお首に食い込む指を折った。気管の辺りが指の形に凹んでいる。これは自分も修理が必要だ。その旨を開発部に知らせてから、エレクトロに向き直った。
 臨戦態勢は解けていない。零壱が言った通り、エネルギーが尽きるまで戦い続けるのだろう。壊せば済む話だが、エレクトロは破壊の許可が降りない。エネルギー切れまで付き合うわけにもいかない。
 となると、やることは一つだ。前面の防御を捨てて距離を詰める。エレクトロは固く握っていた拳を開いて腰を落とした。掌打の構え。左胸へ繰り出された一撃を、掌で受け止めた。間髪入れず指を絡めて握り締める。ぴたりと重なった掌の間に、次の瞬間、閃光が散った。
 ボルテージが発した電流は瞬く間に神経をショートさせた。がたがたと不自然に腕が震える。普段のエレクトロが操る電撃に比べると遊びのようなものだ。それでも、絶縁機能のない掌から直接流し込めば、数十秒の間は動きを止められる。そのままの勢いでエレクトロを組み敷く。胸のコネクタを力任せに外すと、エレクトロは「っう、ぁ」と呻き声を漏らし、嫌がるように身体を捻った。だが、左腕を失い、右腕の制御ができず、両脚を抑えられた状態では抵抗もできない。ボルテージがコネクタの奥に潜んでいたキューブ状のコアを引き抜くと、エレクトロは僅かに痙攣した後、動きを止めた。

【定期】えっちなロボットが見たい ということで。健全ERO
190516

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