主催者であるMZDとMCのミミニャミが登場し何やら喋った後、彼、Mr.KKが二階席(この場合の席とは名ばかりで、二階には関係スタッフしか上がれない)から現れた。そして彼は、ライフルだと思わしき銃を取り出して、その引き金を絞った。響く銃声に一瞬観客がどよめく。が、その弾薬はステージまで届くと、彼らの背後にあったケーキの蝋燭に火をつけた。
 どういう仕組みかはわからないが、MZDのことだから弾薬に仕掛けでもしてあったのだろう。フロアは湧き上がり、それでパーティーは始まった。
 その歓声に眉一つ動かさず、KKは静かに立ち去る。彼をフロアから見上げていたレオンは、思わず口笛を吹いたのだった。
 30分の休憩時間。
「ハロー、ミスターケーケー」
 喫煙ルームで煙草をくゆらす男は、アーティストのオーラがなく(たぶんわざと出してない)、フロアでのクールな表情もなく(たぶんこのだらけた方が本物)、声をかけてきた僕を見てため息をついた。失礼な人だった。
「……カラフルな兄ちゃんや」
「なに?」
「俺は時間外業務が心底嫌いでな」
「うん」
「金にはならねぇ、疲れは溜まる、イイことなんざひとつもねぇんだ」
「うんうん」
「でだな、今は休憩時間、時間外なわけだよ」
「うんうん」
「だからな、人と話す必要はねぇんだ」
「うん」
「つまり……もうわかっただろ?」
「うーん、わかんないな。アンタは笑顔も無表情も疲れるから人の来ないこの部屋に来たわけで一人でくつろいでいたところに僕が来ちゃってしかも話しかけてくるもんだから面倒だなあ邪魔だなあと思ってさっさと出て行くように仕向けた、ってことくらいしか」
「わかってんじゃねぇの」
 ふーっとまた煙を吐き出す。たぶん、今のはため息だった。それからじっと見つめてくる目。言外に伝えようとしていることが、伝わりすぎている。
「ミスターケーケー」
「その呼び方やめろ」
「じゃあなんて?」
「ミスターってのが多い」
「じゃあミスター」
 アンタの音楽は聴いたよ。オープニングで感じたクールな印象とは違う、なんだか物静かで前向きな曲だったね。でも今僕が見ているアンタ、僕が思うに、これが普段の、普通のアンタなんだろうけどさ、とても疲れているように見えるよ。ずっしり重い影を背負っているみたいだ。クールなミスターと、前向きなミスターと、気怠いミスター、本物はどれかな。たぶんどれも本物じゃないと思う。
「僕の音楽を聴いてよ。アンタには似合わないくらい、きらきらで眩しい音楽だから」
「嫌がらせかよ」
「違うよ。アンタがもう一人増えるのもいいだろって話さ」
 僕はステージでライトを浴びるのが大好きだけど、アンタはそうじゃないんだろうね。だって、ずっしり重い影を背負っている。

レオンの可能性について考えたいシリーズ。
正反対なレオンとKK。レオンはKKのこと気に入りそうだけど、KKは鬱陶しがりそう。
120506

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