彼女はステージの上からも見えた。スツールに腰掛け、ロックグラスを前に頬杖をついている。時間を持て余しているようにも見えたが、少し違う。どことなく所在なさげなのだ。まだまだ幼さの残る横顔には、鬱とした陰がある。騒がしいフロアの中、隅でぼんやりとしているみほは少しばかり浮いた存在だった。その所為かどうかは置いておくとして、その姿はレオンの目にしっかりと飛び込んだ。
 その彼女が、こちらに顔を向けた。それと同時に我に返ったレオンは、とりあえず、目の前のフロアに向き直った。
 いつもなら、パフォーマンスを終えてすぐに店を出る。というのも、人に絡まれるのは嫌だし、残ってもやることがないからだ。人目を憚ってこっそり抜け出す。そんなことを繰り返しているうちに、僕はいつの間にか、ちょっとした有名人になっていた。悪い気はしない。でも、そういう人物には噂に尾ひれがつく。それは遠慮願いたい。だから余計に、無闇に特定の人と接するのを避けていたわけだけど。
「ねえ」
 僕は、なんとなくの出来心で、彼女の隣のスツールに座ってしまった。
「さっきの、見てた?」
「え?」
 短い髪が跳ねて、驚いた顔が僕の目に入る。それは見覚えのある顔で、ああやっぱり、と僕は嬉しくなった。
「さっき僕が踊ってたの」
「あ……うん、見た」
「そう! よかった」
 彼女は、訝しげな表情で僕を見つめる。こういうところに慣れていないのかな。話しかけた時の反応を見た時も思ったけど、少し、居心地が悪そうだ。
 僕は、彼女の袖を引っ張った。
「ここは初めて?」
「……うん」
「知り合いもいない?」
「いないわよ」
「そう、じゃあちょっと出よう。ここは、うるさい」
 え、と戸惑った声を上げるのを聴いたけど、気にせず廊下へ出る。一枚扉を挟んだだけでずいぶんと静かになる。明るい照明の下で見る彼女は、昼間に見る彼女と同じだ。ただ、少し不機嫌そうだけど。
 まあ、それはいいや。僕は彼女に言いたいことがあったんだから。
「ねえ、アンタは音楽をやってるんだろう」
「そう、だけど」
「じゃあ、目指すべきだ」
 彼女はきっと、ステージで歌う価値のある人間だ。
「アンタならパーティーに出られるさ」

レオンの可能性について考えたいシリーズ。
レオみほ、たぶんこのレオンは成人済みだなあ。ストリートライブしてたみほをクラブで見かけたって設定、だったはず。それにしてもレオンの不審者臭がやばいな。これは警戒されても仕方ない。
120417

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