「よ、おつかれっ」
 ステージから降りて廊下へ抜けると、奴に声をかけられた。ここのところいつも待ち伏せをしている、奴。
「今日のステージも最高だったぜ!」
 ほらよ、と投げられたタオル。ありがたいけど、使えない。誰の前であろうと、夜の街ではフードをかぶったままでいることにしている。本当は、思いっきり汗を拭いたいけど……ああ、少しげんなり。でも顔には出さない。出しても口元しか見えないのだけど、こいつはそれだけで表情を見分ける。さすがホスト。
 僕が首を軽く拭ったのを見てチャラ王(このイカレた名前はただのあだ名)は、あーと息をついた。
「別に今ならフード取ってもよくね?」
「よくない」
「なあに、俺に顔見られたくないっつーの?」
「違う。ただの、僕の意地」
「じゃ、今度見せてね」
 と言うのと同時、今度は缶を投げられる。派手なパッケージ。オレンジサワー。
 チャラ王が人懐っこい笑みを浮かべた。
「安モンだけど、奢り」
「ありがと」
「いーんだってぇ」
「でも僕未成年」
「は!?」
「知らなかったんだ」
「……うん」
 だから返す、とその缶を差し出す。チャラ王は「まじかよ……」なんて呟いて、ダメージは大きかったみたいだ。これはかわいそうなことをしたかもしれない。
 慰めた方が、いいか。
 いつまで経っても動かないチャラ王の手を掴んで缶を握らせる。それからぐっと引っ張って近寄らせると情けない声をあげて壁に手をついた。なんだか言い寄られてるような体制。まあいいか。近付いた顔、耳の下の骨のところに、わざとリップ音をたてて軽くキス。チャラ王がびくりとしたのがわかった。チャラ王なのに。
 そのまま、耳元で「まあ安心しなよ」といつもの声音で。
「気持ちは嬉しいから」
 言い切ってすぐに、僕はチャラ王からするりと離れた。肩越しに「じゃね」と手を振り、外へ出る。
 最後にちらりと見た表情、吹き出すのを堪えていた。なんて間抜けな顔なんだ!
 口説きなれてるはずなのになあ、奴はホストじゃなかったっけ。僕のちょっとした悪戯に一々赤面して惚けるチャラ王は、なかなか見られるものじゃない。
 何はともあれ、意外にも早くクラブを抜け出すことが出来たので、僕の帰路は弾んでいた。
 ああ、早く帰ってシャワーを浴びたい。

レオンの可能性について考えたいシリーズ。
無自覚に男を落とす男。チャラレオ好きです。実はすっごい好きです。チャラ王の前だと子供っぽいレオン。
120416

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