午前二時。使用中ランプがついたままの研究室では、エレクトロが一人コンピュータに向かっていた。就寝時間はとうに過ぎているが、朝までに、インストールとセットアップを済ませなければいけない。面倒な役を回されたエレクトロは、ずいぶんと長いこと部屋に閉じこもっていた。
 最後の動作確認を終え、深い息をつく。何度か休憩を挟んだとはいえ、さすがに疲れた。目を閉じて大きく伸びをする。と同時に、ノック音。返事を待たずに入ってきたのは、ボルテージだった。エレクトロは思わず立ち上がって、彼に近づく。
「ボルテージ、どうしたんだ」
「様子を見に来ただけだ」
 素っ気なく返したボルテージは、コンピュータのモニターに顔を向けた。中央に表示された横長のバーとパーセンテージの数値がゆっくりと上昇している。時間はまだかかりそうだ。
「あとはこれだけか」
「そう、やっと終わり」
 ふわ、と欠伸を一つ漏らして、エレクトロが答える。その言葉を聞いたボルテージは、不審げに目を細めた。
「やっと?」
「ん? ああ、結構長いことかかったからな」
「具体的には、何時間」
 ボルテージの眼差しが尖る。理由はわからないが、そこから剣呑なものを感じたエレクトロは、そっと視線を逸らして壁の時計を見上げる。
「確か、九時には始めてたから……五時間弱かな」
 恐る恐るボルテージに向き直ろうとしたその時、腕を力強く掴まれた。
「えっ、あ、あ」
 ボルテージはそのまま歩き出す。ただただ彼について行くエレクトロ。部屋の隅にあったソファーの前まで来ると、両肩を推して半ば無理やり座らせた。呆然として見上げるエレクトロに、ボルテージは硬い口調で一言「休め」と言った。
「インストールには時間がかかるだろう、その間に休んでおけ」
 エレクトロが、少し困惑したように顔をしかめた。何度か口を開閉させて、「でも」と頼りなく言う。
「大丈夫だ、あと少しだから」
「その少しは俺がやる」
「いや、ボルテージだって疲れてるだろ」
「俺はさっきまで仮眠を取っていた」
「……休んでる間に寝ちゃうかもしれないし」
 もごもごと言い訳を続けるエレクトロ。頑なに休息を断る姿に、ボルテージは深く息をついた。びくりと肩を震わせたエレクトロの隣に、ボルテージが腰掛ける。頭に手を伸ばし己の方に引き寄せると、とん、と肩に重みがかかった。
「だったら寝ていろ」
 大きな手のひらが、赤い髪をくしゃりと撫でる。
「肩くらい貸す」
 エレクトロはそっと目を閉じた。されるがままに、体をボルテージに預ける。意識が完全に沈むまで、手のひらを温度を感じていた。

これ、近々つづき書くって言ってたんだけど、近々っていつだろう。
130220

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