酒に弱いわけではない。余程のことがなければ吐かないし、すぐに寝ることもない。だが。
「せーむっ!」
 ユーズは、酒癖が悪い。
「重い、どいてくれないか」
「いーやーや!」
 背後から飛びつかれて、首に腕を回される。息が詰まって、少し苦しい。
「せめて腕を緩めろ」
「そない俺のこと嫌い?」
「違う。首が絞まるんだ」
「……しゃあないなぁ」
 渋々といった体でユーズが離れる。が、ほっと一息つく間もなく、今度は横から抱きつかれた。危うく、持っていたグラスをひっくり返しそうになる。
「ユーズ、危ないだろう」
「そない言うても」
 ユーズが、私の肩口に顔を寄せる。
「セム、冷たくて気持ちえぇし……」
 ぎゅうぎゅうと力を込めながら言われた言葉に心臓が跳ねる。素面の彼では、絶対に有り得ない台詞だ。かく言う私も酔ってはいる。だから少し、調子に乗った。
「……随分と積極的だな」
「うー……?」
 缶ビールに伸ばした手を取り、体を抱き寄せる。離れられないよう腰に手を回し、もう片方は火照った頬に添え、彼の唇にかぶりついた。薄く開いた隙間に舌を滑り込ませる。口腔内は驚くほど熱い。
「んぅ、んっ、んんー!」
 抵抗のつもりか、ユーズに肩を弱々しく叩かれる。そっと唇を離すと、ユーズの瞳は先ほどより幾分か潤んでいた。とろんと溶けた表情に、濡れた赤い舌、口端から伝う唾液。普段の快活な姿からは想像できない、扇情的な顔。
「も、せむ……」
 その表情が、不機嫌そうに曲がった。
「明日に響くから、あかん」
「……そうだったな、悪かった」
 言われて初めて思い出す。互いに仕事があることをすっかり失念していた。腕を解いて、素直に謝る。
「あほ」
 私の額を軽く叩いて、ユーズはへらりと頬を緩ませた。その無邪気な笑顔に、胸がざわついた。振り払ったはずの邪な考えが頭をよぎる。駄目だ、彼を寝室に連れ込むことはできない。理性を全力で働かせて、衝動を抑える。
 しかし、ユーズは私の葛藤に気付かない。
「また別の日な?」
 幼子に言い聞かせるように、頭を撫でられる。子供扱いするなと手を振り払ったが、私は、平静を装えていただろうか。思わずふいと顔を逸らす。それが、間違いだった。
「せむー……?」
 舌っ足らずで、甘えているような声。不思議そうに私の顔を覗き込む。背筋がぞくりと震えて、もう、考えるのを止めた。
 立ち上がって、ユーズの腕を掴む。彼の驚いた声が聞こえたが無視。半ば引きずるようにして部屋を出た。そこでようやく私の意図を悟ったらしく、ユーズは自由が効く手で私の腕を引っ張った。その力が弱いのは、彼が酔っているからに違いない。
「ちょ、ちょお、セム、なんで!」
「何故?」
 やはり、自覚はなかったらしい。案の定ではあるが、たちが悪い。寝室に入って、ユーズをベッドへ突き飛ばす。
「お前が誘ったんだろう」
 扉の鍵をかけて、振り向きざまに、先ほどの質問に答える。一瞬呆けたユーズは、すぐに眉を吊り上げた。
「俺がいつ誘ったっちゅうんや!」
「いつ、というよりずっとだな」
「はっ……?!」
 薄暗がりの中だが、その声音から、ユーズが顔を真っ赤にしていると想像がつく。笑い出しそうになるのを堪えて、ベッドの上の彼に近づく。逃げられないとわかっているのか、身動き一つ取らず、ユーズは私を見上げていた。
 体を強張らせるのを認めながら、手を伸ばす。出来うる限り優しく抱きしめて、耳元で囁いた。
「ユーズを抱きたい」
 びくりと震えたのが伝わってくる。ユーズは、直球で言われるのに弱い。
「嫌か?」
「……いややない、けど」
 ユーズが言いたいことはわかる。安心させるように、抱きしめる腕に力を込める。
「無理はさせないから」
 少しの間。ユーズの返答を、じっと待つ。
「……それなら、えぇよ」
 普段ならば頑なに拒否するユーズがこうも簡単に折れたのも、酒の力か。
 感謝と謝罪の意を込めて、彼の目尻にキスをした。背中に回していた腕を下ろし、服を持ち上げながら脇腹を撫でる。ユーズが息を詰めてびくつく。アルコールを含んだためか、いつもより敏感だ。ゆっくりと体をなぞってから、胸の突起を指で押し潰すように弄ると、小さな悲鳴があがった。
 ……抑えられるだろうか。
 無茶はさせないと言った矢先に、その自信が失せる。また、彼を怒らせてしまうかもしれない。と考えかけたが、思考はすぐに止めた。今は、目の前にいるユーズだけを思えばいい。
 渇いた唇に触れるだけのキスをして、私達はその行為に没頭した。
 明朝、ユーズにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

セムユズ好きなんですけど、ユーズの関西(たぶん大阪?)弁が書き手泣かせすぎて。一年弱関西に住んでたことはあるんですけどね。ぜんこくのかんさいじんのみなさん、ごめんやで。
ところで、セムさんはテンプレのような攻め様って感じだと思う。BL的にはありがたい。とげとげ。
130221

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