そばにいさせて。その言葉を最期に女は逝った。かなしいかなしいラブ・ストーリー。ユーリは本をそのままに、顔を上げた。
「私は日本語の文章が好きだと思う」
誰に言うでもなしに呟いた声に、アッシュの耳がピクリと反応する。盆のティーポットとカップをテーブルに並べながらアッシュは首を捻った。
「思うんスか」
「三カ国しかわからんからな、今のところは日本語が好きだと思う」
「オレはあんまり本読まないからわかんないッス」
「僕は英語の方が読みやすいと思うヨ」
「そうなんスか」
「読み慣れているかどうかだろう」
「それもあるかもねぇ」
「読み物のジャンルも違う」
「それもそうだねぇ」
「スマイルは何を読むんスか」
「ロボットとか生き物とか、かなぁ」
「……児童書?」
「化学系の学術書だ」
ああなるほどと頷いたアッシュは、ポットを持ち上げ均等に紅茶を淹れる。スマイルがケーキケーキと喚くがアッシュはあまり意に介していない。ゆっくりと注いだ後にゆっくりとナイフを入れている。
ユーリは紙面に目を落とした。本の中では、残された男が一人打ちひしがれていた。その四肢を抱き、幾度も女の名前を口にしている。
ユーリは目を細め、栞を挟むと本を閉じた。