「俺、あれに憧れてんだよなあ」
 鉄の塊を眺めて、零壱が恍惚のため息をついた。
「何よりかっこいいだろ。スリムなくせに細かいとこがごちゃごちゃーっとしてて重量感あるし、 いろいろカスタマイズできるのもポイント高いだろ。それからエンジン!メカニックの血が騒ぐっていうか、ロマンあるよなあ……」
 バチバチと飛び散る火花が収まって、零壱はヘルメットを外した。満足げな表情が振り向く。
「で、どうよ少年。この作品は」
「ゴミ」
「うむ。素直でよろしい」
 辛辣な、率直すぎる意見。けれど、それを言われた当人は人懐っこい笑みを浮かべた。手元の設計図と、ゴミと称された目の前の鉄の塊を見比べる。
「中身はゴミだが、見た目は完璧にバイクだろ?」
「完璧?」
 ギガデリックが判断するところ、シルエットだけはバイクだ。
 が、エンジンはない、排気口もない。ハンドル部分は二つの極太の差し込み口がついているし、メーターの代わりにはモニタがついている。二つのタイヤと座席があるために、辛うじてバイクだと言えるだけだ。
「これ、何に使うんだよ」
「システム管理ソフトのインターフェース、俺専用の」
 ニヤリと満足げに笑って、零壱はバイク(のような何か)に跨がる。ハンドルの端子に両手を突っ込むとモニタが点灯した。
「俺、プログラム組むのは好きだけど、こういうカッコイーイデザインをゼロから考えるの苦手でさあ。だから見た目に関しては真似することにしてんの」
 どうだ!とギガデリックを見る零壱の表情は輝いている。自分では満点の出来で、褒めてほしいのだろう。けれど、ギガデリックは深いため息をついた。
「……あのな、道具ってのは一番に利便性を求められてんだ。絞られた目的のために必要なモンを取り付けて無駄なモンを省いて、計算されて形作られる。スマートな道具は目的から外れてないから美しいんだよ。わかるか?」
 きょとんとしながらも零壱は頷く。突然なにを言い出したのか、不思議に思っているのだろう。
「要するに、ゼロ。走るために生み出されたバイクを走らせもせず室内で使うって姿は相当滑稽だ」

スマホアプリのライトレってやつのお題だったんだけど、肝心のお題単語が入らなかったという。
自分はメカニックだと思ってるけど造形には向かないぜろにーさん。
150305

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